研究概要 |
平成7年〜9年度の3年間にわたり生化学的,分子生物学的アプローチ中心として多角的に解析を行った結果,歯髄細胞から象牙芽細胞への分化を引き起こす誘因についていくつかの点で明らかに出来た。 1.ヒト歯髄由来の培養線維芽細胞に歯科用セメントから溶出した成分を間接的に与えたところ,非常に毒性の低いものがあることが判明した。これらの歯科用セメントは,今後のIn vitroでの分化誘導物質として有用と思われた。 2.ヒト歯髄の細胞周期とアルカリフォスファターゼ活性の加齢に対する影響を調べた結果,細胞周期と加齢変化との相関はほとんど見られなかったのに対し,アルカリフォスファターゼ活性は,明らかに若年者の方が高かった。歯髄器官培養系における新生象牙芽細胞の分化の指標の1つとしてこのアルカリフォスファターゼ活性の上昇が考えられると思われた。 3.ヒト歯髄の器官培養に単独でTGF-β1やBMPを加えても,象牙芽細胞の分化および明白な硬組織形成の証拠は得られなかった。培養条件をいろいろ変えて行っても同様の結果であったことを考えると,In vitroでの象牙芽細胞の分化の誘導にも,In vivoで起こっていると思われる複雑な細胞間あるいは各種サイトカインの相互作用などを同時に引き起こす環境を作る必要があると思われた。 4.臨床症状から炎症状態にあると思われる歯髄および健康状態にあると思われる抜去埋伏歯の歯髄を摘出し,各種サイトカインのmRNAの発現状況をRT-PCRを用いた分子生物学的アプローチで検索したところ,どのような状態の歯髄からもTGF-β1のmRNAの発現が確認された。上記のようにTGF-β1単独では象牙芽細胞への分化を引き起こすことはなく,むしろ歯髄の安定化,恒常性を保つのに役立っているのではと考えられた。
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