多彩な生理活性をもつプロスタグランディン(PG)のうち、PGE_2は、強力な骨吸収誘導物質として知られている。しかしながら、最近、PGE_2は骨形成促進作用をも有することがin vivoおよびin vitroの実験で確認されている。本研究では、1)培養骨芽細胞様細胞(RC細胞)において、PGE_2が"osteoblastic"な指標【アルカリフォスファターゼ(ALP)活性、オステオポンティン(OPN)合成、骨様結節の形成】に及ぼす影響を調べることによってPGE_2の有する骨形成促進作用機構を詳細に把握するとともに、2)in vivoにおいて実験的歯周炎を惹起させたラットにPGE_2を全身投与した場合、PGE_2が実際に歯周病に有効かどうかを歯槽骨の吸収程度を指標として調べた。その結果、RC細胞におけるPGE_2のosteoblastic markerに及ぼす影響を調べた実験では、骨様結節形成およびALP活性の変動より、PGE_2は骨原性細胞から骨芽細胞への分化促進作用を示すとともに、PGE_2が成熟骨芽細胞に作用する際は、別の機序で骨芽細胞の石灰化機能を促進する可能性があることが明らかとなった。また、石灰化基質に取り込まれるOPNはPGE_2による石灰化促進と相まって増加することも明らかとなった。一方、ラット実験的歯周炎におけるPGE_2の全身投与実験では、ハムスターの口腔内にActinomyces viscosusを感染させ実験的歯周炎を惹起させた場合、著しい歯槽骨吸収が起こるが、これにPGE_2を投与した群で、第一および第二臼歯ともに有意に歯槽骨吸収が抑制された。この結果は、歯槽骨を直接肉眼的に調べたものであり、directevidenceとして説得力に富んでおり、PGE_2の全身投与によって歯槽骨代謝に何らかの内因性影響が及んだ結果、歯槽骨吸収抑制という現象が起ったことを示している。以上の実験結果は、PGE_2が歯周病治療薬としての可能性が十分に考えられることを示唆するものである。今後の実験計画として、PGE_2の局所塗布の効果を同様のハムスターの実験系を用いて調べ、全身投与の結果と比較すること、また、濃度および作用時間判定、副作用のチェックも必要であり、同時に本実験系におけるPGE_2の作用機序を解明することも重要な課題である。
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