今回の研究では、歯髄創傷時の治癒過程において、歯髄細胞が象牙芽細胞に分化し、修復象牙質を形成するメカニズムを解明すべく、「象牙質形成因子」の遺伝子のクローニングを試みた。象牙質形成因子は異所性の骨化を誘導するBMP活性を有し、TGF-βスーパーファミリーに属すると考えられる。したがって、3^1末端部の約130のアミノ酸配列に類似が認められることを利用して、3^1側24種類のプライマーSJL151-159、187-201および5^1側SJL160を用いて、94℃1分、50℃2分、72℃2分40サイクル、72℃10分の条件でPCRを行った。テンプレートとしては、4週令ラット切歯歯髄より分離したmRNAからSupersucript reverse transcriptaseを用いて合成したfirst strand cDNAを用いた。アガロースゲル電気泳動を行い増幅されたDNA、サイズ280-300bpのバンドを切り出しDNAを精製し、TA cloning kit(Invitrogen)を用いて大腸菌に形質転換した。ホワイトコロニーを拾い上げ、96穴プレートに培養し、BMP-2、-4、-6および-7を含む混合プローブを用いてコロニーハイブリダイゼーションを行い、既知のBMPを含むコロニーを除外した。QIAwell 8 Plus(QIAGEN)を用いて、プラスミド精製を行い、Automatic Sequencer(Pharmacia)にてAutoCycle Sequencing法で350個のプラスミドの塩基配列を決定した。その結果、BMP-2、-4、-6および-7以外に、BMP-8、Inhibin-βB、GDF-1、-5、-6の塩基配列を持つクローンが得られた。また、DMP62およびDMP63と名づけたクローンでは、各々ラットvgr proteinと59%、Inhibin-βAと55%のアミノ酸配列の類似が認められた。これらの塩基配列は遺伝子バンクに見出されず、未知の遺伝子ではないかと思われたが、私信により、これらは未発表のGDF-8およびGDF-11であり全身あらゆる所に存在する、歯髄に特異的なものではないことが判明した。今後、さらにTGF-βスーパーファミリーに属する歯髄組織に特異的な未知の遺伝子のクローニングを継続する一方で、ラット切歯歯髄組織から得られたこれらのBMPsおよびGDFsの歯胚および歯髄組織における局在性をin situ hybridizationにより調べ、象牙芽細胞の分化に関与する因子を明らかにする予定である。
|