研究概要 |
前方転移に伴う顎関節円板の変性過程を明らかにするため、まず変性過程のゴールとしての関節円板の石灰化に着目した。ヒト顎関節円板の石灰化には少なくとも二つの機序が示唆されることを第7回日本顎関節学会総会において報告した。すなわち穿孔の見られた関節円板では、穿孔部に隣接した関節円板下面に軟骨様骨が形成されていた(骨化)。 一方、穿孔の見られなかった関節円板では後方肥厚部と中央狭窄部との移行部の中層において膠原線維の走向の乱れ、硝子様変性および軟骨細胞の集蔟を認め、その部位に石灰化が生じていた(異所性石灰化)。 そこで、後者の穿孔の見られない関節円板における変性過程をさらに追究するため、学生解剖実習屍体より剖出した245顎関節円板のうち、前方転位が見られ、かつ穿孔を伴わず、また軟X線写真にて明かな石灰化の見られない8個体16円板を対象とした。 まず、関節円板を内外側正中で矢状断し、内側半分を標本とした。標本を通法に従いパラフィン包埋し、関節円板正中矢状面中央から内側に向かって厚さ5μmで各標本につき200枚の連続矢状断切片を作成し、H-E、トルイジンブルーpH2.5,4.1,7.0染色、抗ケラタン硫酸抗体を用いたABC法による免疫染色を施し、病理組織学的に検討した。その結果、2標本(12.5%)において顎関節円板の後方肥厚部から中央狭窄部の移行部の中層に、膠原線維の走向の乱れ、かつトルイジンブルーpH4.1,7.0および抗ケラタン硫酸抗体にも濃染する部分が認められた。同部位は既報において異所性石灰化が認められた領域とほぼ同一部分と考えられ、顎関節円板の変性過程において石灰化に先立つ変化の1つとして、硫酸化GAGの集積が起こっていることを示すものと言える。なお、1標本においては円板後方肥厚部の下面にもトルイジンブルーpH4.1,7.0および抗ケラタン硫酸抗体に濃染する領域が見られた。
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