本研究は咀嚼に見られるような三叉神経のCentral Pattern Generatorについて研究したものであるが、まず顎付き培養脳幹においてチャンバー内で薬剤性にリズミカルな顎運動を確実に誘発することに成功した。これにはプレパレーションの改良を要した。GABA_Aレセプターの桔抗薬BicucullineとNMDAレセプターの興奮薬NMAを投与すると、リズミカルな顎運動と開口筋と閉口筋からリズミカルな筋活動が観察された。開口筋と閉口筋のリズミカルな筋活動を検討したところ開口筋と閉口筋ではリズムジェネレータが異なることが示唆された。また左右の同名筋の関係でも、リズムジェネレーターが左右に個々に存在することが明らかとなった。リズムジェネレーターの局在については、脳幹ブロックの連続スライスの実験の結果、三叉神経運動根からリズミカル活動を誘発できた最小脳幹ブロックは吻側は三叉神経運動核吻側境界から約1000-1200μm、尾側は三叉神経運動核境界、内側は三叉神経運動核近心境界から約200-400μm、背側は三叉神経運動核背側境界から約700-800μmの脳幹ブロックであった。すなわち三叉神経運動核のごく近傍に存在することが明らかとなった。さらに、より尾側の脳幹が両側性に吻物のリズムジェネレーターを制御することもあわせて明らかとなった。obexからの連続冠状断により疑核吻側レベルから顔面神経核尾側境界に抑制を示す細胞群が存在することが考えられた。これらの結果は顎運動の研究にまったく新しい概念を与えるものである。
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