研究課題
癌細胞の増殖や転移形成には増殖因子を介した自己分泌、内分泌、そして傍分泌腫瘍増殖促進機構といった腫瘍増殖機構が報告されている。また腫瘍細胞自身が増殖因子受容体を過剰発現することにより増殖刺激を自己増幅する機構を構築している可能性が示唆されている。われわれはヒト上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子を挿入し強制的に同受容体を過剰発現させた唾液腺由来腫瘍細胞(TMSG-EGFR)を用いて腫瘍の増殖能、転移能と増殖因子受容体過剰発現の関連を解明すべく実験を行った。EGFRの過剰発現によりin vivo、in vitroにおけるTMSG-EGFRの増殖能は促進され、さらに外因性EGFはTMSG-EGFRの増殖に促進的に作用することが明らかとなった。EGFの主な分泌組織である唾液腺を摘出した動物を用いたin vivoでの腫瘍増殖は有意に抑制され、EGFR過剰発現腫瘍の増殖機構には内分泌、傍分泌腫瘍増殖制御機構が関与することが明らかとなった。さらにwild TMSGでは認められなかった血小板由来増殖因子、インスリン様増殖因子に対する増殖促進作用をTMSG-EGFRでは獲得し、増殖促進的に作用した。これより細胞膜近傍における増殖因子受容体相互のクロストークまたは膜以降の情報伝達経路が修飾を受ける可能性が示唆された。またTMSG-EGFRでは外因性TGF-β刺激による増殖抑制を受けないことから、細胞増殖抑制的制御機構からの逸脱も腫瘍増殖促進に関与していることが示唆された。EGFRの細胞内情報伝達にはチロシンキナーゼ活性が重要な役割を果たしている。チロシンキナーゼ選択的阻害剤はin vivo、in vitroにおいてTMSG-EGFRの増殖を有為に抑制した。TMSG-EGFRの様なEGF依存性の増殖機構を有する腫瘍ではチロシンキナーゼ選択的阻害剤は抗癌活性を有することが明らかとなった。われわれは細胞接着因子発現低下と腫瘍好転移性、細胞遊走性との関連を発表しており、今後、増殖因子受容体過剰発現、細胞接着因子発現低下、腫瘍遊走能亢進等の現象を包括的にとらえより正確な腫瘍悪性度評価、患者予後に関する指標を提供したい。
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