研究概要 |
Background:平成7年度研究において分子マーカーを用いた長時間手術での凝固線溶系の推移を検討した結果,長時間手術では凝固活性の著しい亢進が生じ,さらに線溶活性の異常をともなう可能性のあることが示唆された.そこで平成8年度研究において,術中の抗凝固療法としてのヘパリン持続静注の効果を明らかにすることを目的に行った. Methods:対象は10時間以上を要した血管柄付遊離皮弁移植を含む悪性腫瘍手術を行った10名の患者とし,ヘパリン投与を行った.ヘパリンは顕微鏡下手術開始時より麻酔終了時までactivated partial thromboplastin time(APTT)が50-70sec.となるように持続静注した.麻酔開始時から終了時までprothrombin time(PT),APTT,fibrinogen,antithrombin III(ATIII),凝固マーカーとしてのthrombin-antithrombin III complex(TAT),fibrinopeptide A(FPA),prothronbin fragment 1+2(F1+2),soluble fibrin monomer complex(FM test),線溶マーカーとしてのD-dimer,plasmin a2-plasmin inhibitor complex(PIC),血漿ヘパリン濃度を測定した. Results:この結果,ヘパリン投与後の凝固亢進の抑制効果が明らかで,とくにFM testにおいて陽性を示した症例はなく,また3例に認めた線溶亢進の程度も前年度研究結果に比較してはるかに軽度であった.血漿ヘパリン濃度はほぼ0.2U/ml以下で,APTTとの間に弱い相関を認めた. Conclusions:長時間手術において手術開始早期より進行する凝固線溶活性の亢進は明らかであり,術中の抗凝固療法としてのヘパリン持続静注はきわめて有用であると結論できる.
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