研究概要 |
有機化合物の構造と反応性の相関を明確に理解することは、創薬化学の基礎となる有機合成化学の進歩にとって必須の課題である。本研究は反応に直接関わる分子の構造と選択性の発現との相互関係を、経験からばかりではなく理論的に解明することを目的とする。 ナフチルイミン、シクロヘキセニルイミンおよびアクリルイミンを基質として反応点の選択性制御の構造要因を検討した。その結果、いずれのイミンもイミン上の置換基がアルキル基だと1,4-付加、芳香族基だと1,2-付加が選択的に進行することを明らかにした。また、芳香族イミンのオルト位をイソプロピル基で置換することにより選択性を1,2-付加から1,4-付加へ制御することに成功した。分子軌道計算からオルト位をイソプロピル基で置換したイミンのLUMO係数は1,4-付加に有利である。これは共役二重結合とイミン置換基とがなす二面角はほぼ直行しており、共役系が壊れているとが原因と考えられる。さらに、このイソプロピル基が1,2-付加の反応点を遮蔽していることが1,4-付加選択性を更に高める結果になっている。このように反応の選択性決定要因を立体配座解析ならびに理論計算化学によって明確にした。即ち、付加の位置選択性は反応点のLUMO係数と立体障害により説明できることが明らかになった。 本研究により構造と立体選択性の相関が明確化されると同時に、高い選択性を与える概念的に新しい不斉反応の設計・創製が期待される。
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