これまでの研究で我々は、ダイネミシン型抗生物質のモデルとして、分子内にフェニル基を含むエンジイン化合物を合成し、それらのDNA切断活性を検討した。これらの研究を有用な人工エンジインモデルの開発へ発展させるため、分子力場計算を用いて上記の化合物の誘導体の設計を進め、分子内にエステル置換基を持つモデルを合成した。これらの化合物が加水分解条件で脱炭酸を経由するカスケード反応によりダイネミシンと類似のビラジカルを生成することを見出した。さらに、これらのモデルは、ラジカルの寿命が極めて短く、イオン対へと変換することがわかり、種々の標識実験によりこれらの機構を解明した。一方、ビタミンB6補酵素とエンジインモデル化合物との反応を検討し、これらが酵素反応と類似のアレン形成により、エンインアレン中間体に変化し、引き続いてマイヤーズ型閉環反応を引き起こすことを証明した。この場合の反応は塩基性条件で効率よく炭素ラジカルを発生するカスケード反応であることがわかった。この研究により、DNA阻害剤としてのみならず、酵素阻害剤としての機能を発現しうることがわかった。さらに、反応機構の研究から、特徴的なラジカル反応により酵素の一部を分解し、特殊な生理作用を発現する物質の開発への展開の道が開けた。また以上の研究の過程で確立された合成方法は、今後機能性部位を備えたエンジインモデルを設計・合成しようとする我々の研究の展開にとって極めて有用なものとなった。
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