研究概要 |
本研究ではヒトCu,Zn-SOD遺伝子組換えマウスを用いて、生体内フリーラジカル反応に及ぼす影響をESRを用いて無侵襲測定した。モデル物質には2,4,6-trichlorophenol(TCP)を用いた。クロロフェノール類は工場排水の塩素処理で生成し、河川水中等に微量に見出されている。細胞毒性・遺伝毒性を持つが、その毒性発現機序は明らかになっていない。 TCPを含む生理食塩水0.5mLを経口投与し、処理1時間後にスピンプローブ(Carbamoyl PROXYL 1.2umol/gb.w.)をi.v.投与し、マウス上腹部におけるESRスペクトルを計測し、その初期の傾きから消失速度定数を得た。 非組換え体上腹部での消失速度定数は0.1mM TCP処理群では対照群に比べ上昇したが、濃度依存的に低下し10mM処理群では対照群に比べて有為に抑制された。血清GOT量は濃度依存的に増大した。肝炎誘発物質の四塩化炭素は薬物代謝系で代謝を受け・CCl_3を生成し、脂質過酸化や薬物代謝酵素活性の低下等を引き起こすことが知られている。従って、TCPの低用量時には代謝による活性酸素の産生によりラジカル反応が亢進し、一方高用量時には速やかに肝障害が進行した結果薬物代謝活性の低下等のレドックス変動が生じラジカル反応が抑制されたことが考えられた。1.0mM処理群の消失速度定数は、非組換え体では処理群と対照群に有為差は認められなかった。一方、組換え体では、処理群の上腹部での消失速度定数は対照群に比べて有意に亢進した。組換え体における消失速度定数の有意な亢進は、1)SODにより過酸化水素が過剰に生じラジカル反応が亢進したこと、2)肝障害がSOD活性過剰発現により抑制されラジカル反応が亢進したこと、が考えられた。これについては、ラジカル特異的スカベンジャーを用いて更に解析する必要がある。
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