免疫学の急激な進展は免疫学を医学の単なる一分野の研究にとどめず、医学、薬学、生化学、生物物理学等を総合した学際的な研究に変貌させつつある。そこで、本研究では、免疫系における特異的認識、細胞間相互作用、情報伝達とその制御を顕微光学技術を駆使して、全く新たな視点から解明することを試みた。具体的には、多波長励起共焦点レーザ顕微鏡システムを開発し、ミリ秒レベルでの免疫応答の画像解析システムを確立した。また、免疫細胞の情報伝達を自由にコントロールするマイクロマニュピュレーション技術を確立し、共焦点レーザ顕微鏡による計測と同時に利用する手法を確立した。さらに、走査プローブ顕微鏡を免疫応答機構の解析に利用することを企て、原子間力顕微鏡によるアレルギー初期反応のナノ・メートルレベルでの可視化解析技術を開発した。一方、これら開発した技術を利用して、T細胞、B細胞、ならびに、好塩基球を中心に免疫応答機構の可視化解析を行った。そして、免疫細胞の抗原刺激に伴いカルシウムシグナルが細胞質内だけでなく核内にも伝達することを明らかにした。また、SH2(ser-homology-2)の非常に相同性の高いアミノ酸配列に対するモノクローン抗体を作製し、抗原刺激に伴う細胞内SH2ドメインの動態を可視化して解析した。その結果、抗原刺激に伴い、ser-familyのチロシンキナーゼが細胞膜ならびに顆粒膜に特異的に集合することを明らかにした。また、顆粒膜に存在する膜蛋白質CD63に対するモノクローン抗体を用いて、抗原刺激に伴う好塩基球の活性化の際に、顆粒膜と細胞膜が融合し、化学伝達物質が細胞外に放出される過程を可視化して解析した。同時に、原子間力顕微鏡によりナノメートル・レベルの脱顆粒の動態を解明した。これらの研究成果は今後の免疫応答の研究に甚大な寄与をするものと考えられた。
|