| 研究概要 |
一般に匂いは,嗅覚器と鋤鼻器で受容される.鋤鼻器はフェロモンのような特殊な匂い物質を受容するといわれている.従来,鋤鼻器における情報変換機構はほとんど明らかにされてこなかった.本研究では,カメの嗅細胞にcAMPやIP3を注入し,パッチクランプ法を適用して応答を記録した.その結果,cAMPやIP3を注入すると,内向き電流が流れることを見いだした.cAMPやIP3の濃度依存性,cGMPに対する感受性等は,嗅細胞のそれにきわめてよく似ていた.すなわち,鋤鼻器の受容細胞にも,嗅覚器と同様GTP結合蛋白質を介する受容系が存在することが明らかになった.
一方,カメの嗅上皮と鋤鼻器組織の膜標品に各種の匂いを与え,アデニル酸シクラーゼの活性を測定した.嗅上皮のアデニル酸シクラーゼは,各種の匂いで活性化されるのに対し,鋤鼻器のアデニル酸シクラーゼは活性化されなかった.鋤鼻器は一般的な匂いに応答することが知られているのが,cAMPをセカンドメッセンジャーとして利用していないことを示唆した.おそらく,フェロモンのような特殊な匂いの場合に,cAMPをセカンドメッセンジャーとして利用していることが考えられる.
カメの嗅細胞に各種の匂い物質を与えたときの応答をパッチクランプ法で測定した結果,cAMPやIP3のようなセカンドメッセンジャーを介する情報変換系を介する経路とこれらの経路を介さない経路が存在することがわかった.このセカンドメッセンジャー非依存性の経路は,一般的な匂い物質に対する鋤鼻器細胞の応答経路と類似であることが示唆された.
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