1.胃酸分泌酵素の2種のサブユニット(αとβ)は協調的に合成され、酸分泌の昂進時には細胞膜(頂端膜)からなる分泌細管に、抑制時には細胞内管状小胞に局在化する。この細胞内移行の経路を明らかにするため、酵素を培養細胞に発現させる系を構築した。αサブユニットのアミノ末端約70残基に対応する部位特異的抗体、および、βサブユニットを特異的に認識する抗体を作成し実験に供した。両サブユニットのcDNAを発現ベクターに挿入し、培養細胞(Cos1細胞)に導入した。酵素の一過的発現に成功したので、アミノ末端領域に位置しリン酸化されるTyrをPheに置換したαサブユニットの発現プラスミドを構築し、細胞内局在性に及ぼす効果を検討することが可能になった。 2.上記発現プラスミドから安定に胃酸分泌酵素を発現する、CHO-K1細胞株を樹立した。それらは、ウアバイン非感受性の増殖を示す。このことは、構造と機能が良く似たNa^+ポンプのかわりに胃酸分泌酵素が働いていることを示唆しており、胃潰瘍の薬の検定系が確立したと考えている。 3.胃酸分泌酵素のサブユニット遺伝子が共通の転写制御を受けているのかを明らかにするため、ラットのαとβサブユニット遺伝子の推定調節領域(5'上流配列)をレポーター遺伝子(ルシフェラーゼ)に連結し、プロモーター領域を同定した。レポーター遺伝子をHeLa細胞株に導入した時の転写量は、申請者が発見した新しいDNA結合蛋白質(GATA-GT1またはGATA-GT2)を同時に発現させたときに増加した。部位特異的な変異導入を行った結果、TATA-boxに最も近いGATA蛋白質結合部位が転写の活性化に重要なことが明らかになった。これらの知見は、両サブユニット遺伝子がGATA-DNA結合蛋白質によって共通に転写活性化を受けることを示唆している。
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