諸脳部位における長期増強現象の解明と抗痴呆薬の新しい作用評価系確立

1995 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 07457542
• 研究種目: 一般研究(B)
• 研究機関: 九州大学
• 研究代表者: 渡辺 繁紀 九州大学, 薬学部, 教授 (50037595)
• 研究分担者: 大野 益男 九州大学, 薬学部, 助手 (60211801) ; 島添 隆雄 九州大学, 薬学部, 助手 (00216053)
• キーワード: 長期増強現象 / 抗痴呆薬 / 海馬 / 線条体 / 視交叉上核 / 脳虚血 / 可塑性

研究概要

今年度の研究により以下の点が明らかになった。
(1)KC1によって誘発される線条体のdopamine遊離の増加はNMDAまたはglutamateの刺激により増強される。またglutamate関連薬物によっても用量依存的に遊離が増加する。この遊離にはTTX抵抗性成分が存在することから、この遊離はdopamine神経終末のglutamate受容体刺激による可能性が考えられる。
(2)5分以上の脳虚血により、上記のdopamineの遊離増強は消失する。すなわち、dopamine神経系の可塑的現象は脳虚血に対して敏感に反応することが明らかになった。
(3)NO合成阻害薬は線条体dopamine遊離を指標としたmethamphetamine誘発性逆耐性現象の形成過程には影響を与えないが、維持過程を抑制することが明らかになった。
(4)ラット海馬において虚血誘発性2-dexyglucose取り込み低下はエタノール禁断によって増強されるが、Ca channel blockerはこれを改善することがわかった。
(5)ラット海馬においてNO合成阻害薬は虚血誘発性CA1 presynaptic spikeの減少を抑制することがわかった
(6)ラット視交叉上核でもLTP現象が認められた。すなわち、視交叉上核における神経の可塑的現象を明らかにした。さらにこの可塑性は老齢ラットでは低下することもわかった。
以上、線条体ならびに視交叉上核においてもLTP現象が観察され、これらの部位においてもこれまでよく調べられている海馬同様に神経の可塑的現象が存在していることが明らかになった。また線条体のdopamine神経系の可塑的現象にはglutamate神経系が深く関わっていることもわかった。
さらに老齢ラットでは視交叉上核の可塑性が低下することも明らかになった。これは老人性痴呆患者のリズム障害と何らかの関連があることが推察される。
このようにこれまでよく知られていない部位での可塑性について、いくつかの新しい知見が得られた。今後、さらに詳細にこの可塑性について検討し、海馬のそれとの相同性ならびに相違点を明らかにする必要があると思われる。

研究成果

• [文献書誌] S. Shibata, M. Ono, N. Fukuhara and S. Watanabe: "Involvement of Dopamine, N-Methyl-D-Aspartate and Sigma Receptor Mechanisms in Methamphe tamine-induced Anticipatory Activity in Rats" J. Pharmacol. Exp. Therap.274. 688-694 (1995)
• [文献書誌] M. Ochi, H. Inoue, S. Koizumi and S. Watanabe: "LONG-TERM ENHANCEMENT OF DOPAMINE RELEASE BY HIGH FREQUENCY TETANIC STIMULATION VIA A N-METHYL-D-ASPARTATE-RECEPTOR-MEDIATED PATHWAY IN RAT STRIATUM" Neuroscience. 66. 29-36 (1995)
• [文献書誌] S. Shibata, Y. Yamamoto, T. Tanaka and S. Watanabe: "N^G-Nitro-L-arginine protects against hypoxia/hypoglycemia-induced dcrease in CA1 presynaptic spikes in rat hippocampal slices" Europ. J. Pharmacol.273. 223-228 (1995)
• [文献書誌] S. Shibata, K. Tominaga and S. Watanabe: "Glutathione protects against hypoxia/hypoglycemia decreases in 2-deoxyglucose uptake and presynaptic spikes in hippocampal slices" Europ. J. Pharmacol.273. 191-195 (1995)
• [文献書誌] S. Shibata, Y. Yamamoto and S. Watanabe: "A role of sigma receptors on hypoxia/hypoglycemia-induced decrease in CA1 presynaptic fiber spikes in rat hippocampal slices" Brain Res.670. 337-341 (1995)
• [文献書誌] S. Shibata, T. Shindou, K. Tominaga and S. Watanabe: "Calcium channel blockers improve hypoxia/hypoglycemia-induced impairment of rat hippocampal 2-deoxyglucose uptake in vitro after ethanol withdrawal" Brain Res.673. 320-324 (1995)