1.ゲルゾリン変異体His321がマウス癌の増殖を抑制する機構を解析するため、大腸菌で産生させたHis321ゲルゾリンと野生型ゲルゾリンのアクチンに対するセバリング作用と核形成作用を調べた。His321蛋白質は野生型に比べセバリング能が低下しており、逆に核形成作用は促進していた。次にHis321ゲルゾリンと野生型ゲルゾリンのPIPおよびPIP2に対する作用を比較した。His321の方がPIPやPIP2に対する親和性が強く、またより強くPLCγ1活性を抑制した。 2.His321ゲルゾリンcDNAを移入したマウス線維芽細胞NIH3T3では、増殖因子PDGFやEGFによるDNA合成が、対照群に比べ抑制されることが証明された。 3.膀胱癌細胞株について、ゲルゾリンの産生をヒトゲルゾリンに対するモノクローナル抗体をもちいたウエスタン法で解析した。いずれの細胞株でも正常膀胱粘膜での産生に比べ著しい低下をみた。同時にゲルゾリン遺伝子の転写の低下も観察された。さらにヒト膀胱癌組織においても80%近くの例で産生の低下がみられた。野生型ゲルゾリン遺伝子がヒトの癌に対しても癌抑制遺伝子としての機能をもつかどうかを知る目的で、ゲルゾリン遺伝子を発現ベクターに組み込んで膀胱癌細胞株に移入したところ、その細胞株はヌードマウスで増殖するという癌が持つ性質を失った。 4.ヒトの大腸癌細胞株でもゲルゾリンの発現が低下している例があり、これらの株に野生型ゲルゾリン遺伝子を導入すると腫瘍原性が低下した。ゲルゾリンは、ヒト胃癌、膀胱癌に加え大腸癌においても癌化との関連が示唆された。
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