[目的]高齢社会を迎え、境界域を含めると患者が2600万人にも上ると推定される高血圧症については、医療面に加えて社会経済面からも総合的な対策が必要となっている。本研究は、長期に通院治療を続けている患者の行動意識、薬物治療にかかる累積医療費を把握することにより、質の高い効率的な高血圧対策を推進するための基礎資料を得ることを目的とする。 [対象と方法]宮城県の地域中核病院における高血圧患者の過去16年間の臨床経過を追跡し、高血圧治療の経過や転帰の特徴などから各症例の類型化を試み、高血圧治療の社会経済面の課題を検討した。すなわち、通院を継続する325症例を対象に、診療録(検査を中心に41項目の調査)とレセプト調査により、高血圧患者の多彩な臨床経過について類型化を行い、薬物治療にかかる累積医療費の経過ルート別比較を行った。 [結果と考察]高血圧症307症例の内訳は、治療群95:未治療群5の割合である。治療群はUn-controlled=Aggressive treatment群、Insufficientlycontrolled=Furthertreatment群、Well controlled群に類型化でき、症例の97%まではWell controlled群に属する。品目数で105種に上る多様な降圧剤が使用されており、高血圧の薬物治療はlife style modificationを含めたindividualized steped careが重要であることが窺える。降圧剤だけの医療費は、Well controlled群で1日当たり201円、平均3年9か月の服薬期間で総額は24.3万円である。高血圧の最も多い治療経過であるWell controlled群でいえば、降圧剤の医療費は患者1人当たり年間6.5万円で、患者数を530万人と考えると3440億円が支出されていることになる。高血圧治療にかかる年間の医療費総額はこの3〜4倍の1兆円程度と考えられる。
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