[目的]高齢社会を迎えて高血圧症は増加傾向にあり、治療に投じられる医療資源や患者の負担を考慮した総合的な対策が必要となっている。本研究は高血圧の薬物治療の類型化、累積医療費の算出、長期通院患者の意識の把握により、効果的な高血圧対策推進の基礎資料を得ることを目的とする。 [対象と方法]地域中核病院における高血圧患者の過去16年間の臨床経過を追跡し、治療パターン、転帰、患者意識などを把握し、高血圧治療の社会経済面の課題を検討した。すなわち、通院を継続する325症例と中断した255症例を対象に、診療録、レセプト、およびアンケート調査を実施した [結果と考察]高血圧症307症例の内訳は、治療群95:未治療群5の割合である。治療群はUn-controlled群(I群)、Insufficiently controlled(II群)、Well controlled群(III群)に類型化でき、症例の97%まではIII群に属する。品目数で105種に上る多様な降圧剤が使用されており、高血圧の薬物治療はlife style modificationを含めたindividualized steped careが重要であることが窺える。降圧剤だけの医療費は、III群で1日当たり201円、平均3年9か月の服薬期間で総額は24.3万円である。最も多い治療経過であるIII群でいえば、降圧剤の医療費は患者1人当たり年間6.5万円で、患者数を530万人として3440億円が支出されていることになる。高血圧治療にかかる年間医療費総額は1兆円程度と考えられる。 通院をやめた255症例の追跡の回答率は57.5%である。治療にほぼ満足は中断群23%、転院群17%、服薬に関する不満を訴えるのは、中断群26%、転院群30%である。不満で多いのが、薬を長く飲み続けることによる副作用の不安と、一生のみ続けなければならない辛さである。診療のシステムに対する不満は、中断群で22%、転院群で20%であり、待ち時間が長い、主治医の説明が不十分などの意見が少なくない。
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