我々がすでに熱産生器官であるラット肩甲骨間褐色脂肪組織(BAT)の血流量および熱産生調節に一酸化窒素(NO)が促進因子として関与する可能性をノルアドレナリン投与後のBATの血流量増加と組織温度の上昇がNO合成酵素阻害物質L^ω-nitro-arginine methyl ester(L-NAME)によって抑制されることから明らかにしていたことを確認し、さらにNOがBATの代謝調節に関与する可能性、また中枢性調節によるBATの機能調節にNOが関与する可能性について検討し次の成績を得た。 1.褐色脂肪組織のin vitro熱産生(酸素消費量)はL-NAMEの添加により抑制され、またL-NAMEの添加はノルアドレナリンによる熱産生促進を抑制した。さらにguanylate cyclase阻害物質でNOのスカベンジャーであるmethylen blueがノルアドレナリンによる熱産生を抑制した。 2.L-NAMEの飲料水による慢性投与はBATの数的萎縮(DNA減少)と非ふるえ熱産生(ノルアドレナリン投与後の全身の酸素消費量)及び耐寒性(0℃における結腸温の変化)の低下を生じた。 3.視床下部の腹内側核の電気刺激によるBATの血流量と温度上昇がL-NAME投与により抑制された。 これらの成績はBATの血流量の調節にNOが関与していることを示すだけでなく、さらにBATの増殖、代謝活動による熱産生の調節にも関係する情報伝達分子であることを示唆する。またBATの機能調節が視床下部によって中枢性に抑制されていることが知られているが、この中枢性調節においてもNOが関与していることを推測させる。
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