研究概要 |
代表者らの開発した前癌マーカー酵素GST-P (K.Satoh et al.PNAS,1985)は、発癌過程解析のみでなく、発癌剤や発癌修飾剤の検出、同時に薬物の安全性確認の動物試験(名市大法)にも応用され、多くの国内外の研究者によって活用されている。今年度は、ラット、ヒトPiクラス酵素について次の知見を得た。 (1)グルタチオンの高濃度(10mM)条件下で酵素および非酵素的グルタチオン抱合反応速度を調べた。GST P1-1(ヒトPiクラス)は、広い基質特異性と多種の阻害剤に対する高い抵抗性を示した。GSTの基質のうち、エタクリン酸その他の速やかな非酵素的抱合が注目され、前癌および癌細胞中では、GSH解毒代謝能が酵素的のみでなく非酵素的にも活性化されていることが示唆された(Carcinogenesis 16,869-874,1995)。 (2)GST-Pの遺伝子発現への関与が示唆されている転写因子、c-JUN、c-FOS、c-MYC、c-Ha-RAS、その他に対する特異抗体を、融合タンパク発現ベクターを用いて作成した。これら因子は、正常臓器の内、皮膚表皮、肺平滑筋、気管支粘膜上皮、肝胆管などに発現が認められた。しかし、肝前癌病変(ミニフォーカス、フォーカス)におけるGST-Pの発現とc-JUNとの相関は認められなかった(Carcinogenesis 16,567-571,1995)。 (3)抗脂血剤(ペルオキシゾーム増殖剤)、クロフィブレート(CF)、投与ラット肝発癌過程における前癌細胞の変化を93週まで検討したところ、ペルオキシゾーム酵素のひとつ、エノイルCoAヒドラターゼ(ECH)の増加と、GST(主として1および3サブユニツト)の減少には逆相関が認められた。ECHの変化はGSTに先行していた。ECHは非病変部に発現し、病変部は(-)であり、前癌細胞は、クリア-細胞型が主体を占めていた(Carcinogenesis 16,1699-1704,1995)。
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