研究概要 |
前癌マーカー酵素GST-Pは、発癌過程の解析、発癌性薬物の動物試験等多面的に活用されている。今年度は、ラットの前癌マーカー酵素GST-Pの発現条件、機能その他について次の結果を得た。 1 GST-Pの酸化ストレスによる発現:ラットに鉄ニトリロ3酢酸のi-p.投与により24hまで腎中の過酸化脂質、SII含量が低下した。GST活性は低下(30%)したが16h後回復を認めた。他のGST分子種、Ya、Ycが減少するのに対しGST-P蛋白は3h後から増加(近位尿細管部)し始め、処理前の数倍に達した。GST-PmRNA量には劇的な増加が認められた。したがって、GST-Pは細胞傷害修復または傷害に対する抵抗性において重要な役割を果たしていることが推測された(ABB 329,39-46,1996)。 2 マウスGST MII(GST-Pと同じクラス)のマウス大腸癌Colon 26株の増殖時の変化:雌CDF1マウスにColon 26癌細胞を背中に移植、同時にレンチナン、CDDP(cis-diamminedchloroplatinum)をi.p.投与し、10、14、17、21日後のGST、グルタチオン、CDDP、IL-6を定量した。レンチナンの投与によりGST MIIが減少し、CDDPに対する感受性の増加が認められた(JJCR 87,1171-1178,1996)。 3 GSTの7分子種の活性部位の疎水性の比較:GSTの基質アナログ、GS(CH_2)_<N-1>CH_3(n=1-12)を化学合成してGST7分子種に対する阻害定数、Ki、を測定した。GST 1-1と7-7(GST-P)には良好な直線自由エネルギー関係則(LFER)の成立(Log Ki vs n)が認められ、活性部位の疎水性環境についての知見が得られた。GST-Pは最も疎水性が低く、基質特異性との密接な関連が示唆された。 4 発癌剤投与によるGST-Pの発現:ラットに発癌剤DENをi.p.投与時の肝中のグルタチオンの60%の減少(備品購入した電気化学検出器で測定)は合成酵素活性の阻害に基づく可能性が示唆された。また、ATP、S-アデノシルメチオニンの低下からDNAのヒポメチル化が推定された。
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