研究概要 |
前癌細胞のマーカー酵素ラットGST-PおよびヒトGSTP1-1の生理機能、遺伝子発現、および前癌細胞発生過程に関して次の成果が得られた。 1.ヒトGSTP1-1に対するモノクロナール抗体を作成した。抗体の認識するエピトープを明らかにした。この抗体は同酵素の同定、定量、酵素機能検討その他に有用すると考えられた(Biochem.J.321,531-535,1997)。 2.ラット腹腔への鉄ニトリロ3酢酸の投与により、GST-Pは、投与後数時間でmRNAおよび蛋白レベルで特異的に腎に誘発される事実を明らかにした(ABB 329,39-46,1996)。更に、GST-Pは腎癌においても高レベルで発現が見られた(Carcinogenesis,印刷中)。これらは、GST-Pが発癌性の不飽和アルデヒドの抱合解毒を行っている事実を示唆する。 3.グロビンの転写因子のひとつであるNrf2遺伝子のノックアウトマウス肝では、GSTの発現量が減少しており、更に、抗酸化剤BHA(butylated hydroxyanisole)投与による誘導能が失われていた。これによりGST-Pの発現にNrf2転写因子が関与する事実が明らかとなった(BBRC 236,313-323,1997)。 4.ラットGST-PおよびヒトGSTP1-1の活性部位の疎水性を一連のS-アルキル化グルタチオン(鎖長N=1-14)を調製して直線自由エネルギー関係則により検討した。AlphaおよびMuクラスの疎水性が高いのに比較して、PiクラスGSTのそれは極めて低い事実が明らかとなった。これによりPiクラスGSTには、アクロレインやヒドロキシアルケナ-ルなどの疎水性が低く、親電子性の弱い化合物、即ち水溶性の発癌剤を抱合解毒する特異機能が示唆された。結果は投稿中(Carcinogenesis)である.
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