研究概要 |
難治性血管炎は、従来種々の、特に免疫学的パラメーターの異常が指摘されながらも、それが原因なのか結果なのか明らかでないものが多い。本研究の目的は、多様な膠原病疾患群を自然発症するMRL/lprマウスの動脈炎をモデルとし、この発症が免疫異常を誘導するところのFas deletion mutantであるlpr遺伝子と、遺伝的に分離可能な動脈炎固有の背景遺伝子との共同作用として位置づける中で、その機序と責任因子を解明することにある。その中で今年度は以下に挙げる成果を得た。 1)MRL/lprマウスの肉芽腫性動脈炎に関わるマクロファージ関連サイトカインとその遺伝子解析:a)C3H/lprマウスが動脈炎を発症しないことから、ランダムに動脈炎を発症する個体を有するマウス群 (C3H/lpr x MRL/lpr) x MRL/lprを作出し、このマウス群におけるTNF、IL-1、Eta-1、LIF、M-CSFのmRNA発現量を、動脈炎発症の有無でプロットした結果、動脈炎の発症は特定のサイトカインの量的関数としてでは無く、これらのサイトカインの多変数関数として捉えられることが明らかとなった。b)マクロファージを活性化するEta-1の成熟ペプチドにMRL、C3H系マウスとの間でアロタイプ変異が存在することを発見した。cDNAの塩基配列の解析から、両者に機能的相違があると考えられ、この変異は動脈炎の疾患感受性遺伝子である可能性がある。 2)動脈炎のみを発症する新たな系統マウスの樹立とその解析:上記(C3H/lpr x MRL/lpr) x MRL/lprマウスより動脈炎のみを発症するrecombinant inbred strain,HMM5を樹立した。免疫学的解析から、この動脈炎の発症に、少なくとも従来重要視されてきた抗DNA抗体やpANCAが関与しないことが明らかとなった。 2)動脈炎発症機序におけるアポトーシス関連遺伝子gldの役割の解析:a)Fas ligand mutant geneを有するMRL/gldマウスを作出したところ、MRL/lprマウス同様の動脈炎が発症した。b)このマウスにanti-Fas抗体を投与することにより動脈炎の発症が完全に抑制されることを明らかにした。c)MRL/gldマウスの作出により初めて可能となった骨髄キメラによる動脈炎移入実験において、動脈炎はrecipientがMRL系の場合にのみ発症することを見出した。それ故、Fas介在性アポトーシスを誘導することにより、動脈炎の発症が予防のみならず治療されうること、さらに、動脈炎の発症を規定する背景遺伝子の発現が、骨髄細胞のみならず、骨髄細胞の分化過程に関わる細胞、あるいは血管構成細胞等の末梢細胞にも存在することが明らかとなった。
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