実験用マアジ(平均重量125g)は、静岡県焼津沖にて一括して水揚げし、-40℃で冷凍保存したものを流水解凍して用いた。熱源には紀州産備長炭、主として放射熱で加熱するブラスト式業務用ガス魚焼き器、主として対流熱で加熱するブンゼン式業務用ガス焼き物器の3種を用いた。熱源の放射特性(赤外線分光計)、温度(2波長比率演算方式2色温度計)、二酸化炭素量(赤外線炭酸ガス測定器)、水蒸気量(高温用湿度検出器)、および加熱中の魚の表皮直下、中心部の温度(サーマルアレイコーダー)を測定した。焼き魚の評価には官能検査用シートの他に、重量、水分(常圧定時乾燥法)、保水性(遠心分離法)、硬さ(テクスチュロメーター)、表面温度(サーモビュア)、焼き色(画像解析)を用いた。専門料理人に対するアンケートの結果から、焼き魚のおいしさには姿形の良さ、表面の状態、焼きムラの有無、焦げ色、身のほぐれ、汁け、うま味が必要であり、配点の高かったおいしさに重要な項目は焦げ色、汁け、うま味であった。得られた焼き魚おいしさ評価シートを用いて消費者パネルによる官能検査を実施し、その妥当性を確認した。熱源の温度はいずれも800度付近であったが、放射率は炭、ブラスト式、ブンゼン式の順に0.63、0.59、0.17であり、特に長波長側(5μm以上)の放射が炭では高かった。官能検査では炭、ブラスト式に比べ、ブンゼン式で加熱したアジの焦げ色およびうま味の項目の点数が低かった。また、炭、ブラスト式間に有意の差はなかった。一定の内部温度までの到達時間を変化させた時、焼き魚の仕上がりは加熱時間が短いものほど重量減少が大きく、肉質は硬く、焼き色は強かった。炭またはブラスト式により両面を10分間かけて加熱したアジが最も好まれた。以上、焼き魚のおいしさには焦げ色、汁け、うま味の寄与が大きく、一定条件下では炭とガス(ブラスト式)の仕上がりが等しいことが明かとなった。食の多様化に伴う加熱機器の開発が盛んな今日、本研究の結果は有用な情報となると考えられる。
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