「天性の素質」つまり遺伝的要素がスポーツの成績を左右する因子であることは、競走馬においてその走行能力に基づいて選択交配を繰り返してサラブレットが完成されてきた例に端的に示されている。ヒトの運動能力についても遺伝因子の関与が考えられている。本研究は、分子遺伝学的分析法を用いて、その「天性の素質」の実態探究に着手するものである。 制限酵素Bsm I、ApaI、及びTaq Iを用いての制限酵素断片長多型法による遺伝子多型の分析により、被検者の遺伝子型は主に4種類のハプロタイプ(bbaaTT、bbAaTT、BbAaTt、bbAATT)からなっていることが明らかとなった。ビタミンD受容体遺伝子ハプロタイプは骨密度と相関し、さらにlα・hydroxy vitaminD3投与による骨密度の上昇度とも相関していると報告されている。投擲選手には長距離走者や一般学生と異なり、高い骨密度と相関しているbbaaTTハプロタイプの出現比率が高く、低い骨密度と相関しているBbAaTt、bbAATTハプロタイプの出現比率が低い特徴がみとめられた。 ミトコンドリア遺伝子については、酸化的リン酸化系の酵素群をコードするミトコンドリアDNAの転写調節部位(D-loop領域)について、その塩基配列の多型を調べ、一流長距離ランナーに特異な多型が存在するか否かを検討した。D-loop領域には多くの多型が存在し、個人間でばらつきのあることが確認され、興味深いことに、一流長距離ランナーで変異数が多い傾向が認められた。 これらの結果は、特定の遺伝的要素を持った者が、特定のスポーツ競技において活躍している可能性を示唆する分子遺伝学的な証拠と考えられる。
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