走運動などでは脚のリズムと心拍動リズムの間になんらかの相互関係があるのではないかという仮説の検証と、脚運動と心拍動とが同期する現象(カップリング)の発生機序の解明を目的とした。 実験Iでは、走行時の脚のピッチを一定にし、軽い運動から始めて負荷を漸増したときの心拍数とピッチを連続的に計測した。その結果、トレッドミル走においてもカップリングは一般的に起こる現象であることが確認された。 実験IIでは、走行時の着地の心周期内タイミングとその時点における心周期との関係を明らかにするために、ピッチを固定し、心拍数がそれより低い値で一定を保つようなトレッドミル走を行なった。その結果、駆出期に着地すると心周期は短縮し拡張期の初期に着地すると心周期は延長する傾向があり、両者の間には微弱ながら正弦波状の関係があることを明らかにした。 実験IIIでは、高さ30cmの台から種々な心周期内タイミングで落下させる実験を行い、吸気時に駆出期に着地すると心周期は顕著に短縮し、次の心周期は代償的に延長するが、呼気時に落下しても心周期は変化しないことを明らかにした。 以上の結果と先行研究の結果に基づいて考察し、着地のタイミングと心周期の間に認められた正弦波状特性は、圧反射によって起こる心臓迷走神経中枢の興奮が着地に伴う感覚刺激によって打ち消されることによるものと推論した。またこの正弦波状特性の存在が心拍動を脚のリズムに同期させるようなフィードバックを形成し、これがカップリング発生の基本的メカニズムになっているものと考えられる。
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