シベリア永久凍土地域の北部に広がる湿性草原(ツンドラ)は、夏季に高地下水位のために泥炭層の分解によるメタンガスの活発な発生がある。温暖化傾向での湿原からのメタンガス発生の傾向と将来の予測のため、現地での観測と平行して釧路湿原でのメタン発生の観測を行った。釧路湿原では、全体は融解しているものの冬季に表面部が凍結する。一方シベリアツンドラでは、全体に凍結状態にあるものの、夏季に表面部が融解する。従って泥炭層が凍結-融解を繰り返す過程では、共通性があり、シベリアでのメタンガス発生の条件や環境変動を知る手がかりとなった。 3カ年を通じて、釧路湿原の北方温根内の赤沼付近で、湿原からのメタンガス発生量の観測を行った。一般的に行われているチャンバー法によっている。またメタンガス発生にかかわる環境要素として、湿原内の温度変動、水質変動、植生条件などについての観測も行った。その結果から以下のことが明らかになった。 1) 夏季の湿原からのメタンガス発生量は100-200mmg/m2・day程度であった。 2) 従来発生していないと思われていた冬季にも20-40mmg/m2・dayのフラックスを観測した。冬季の期間の長さを考慮すると、年間発生量に占める冬季の割合は20%にも達するので、特に冬季の長いシベリアツンドラでは、その発生分を十分に考慮する必要がある。 3) メタンガスの発生量にもっともかかわる水質はEh(酸化還元電位)であった。100-200mv以下になると発生量が急増することがわかった。その他の水質要素はあまり影響しない。 4) 湿原構成の植生では、ミズゴケが卓越する部分では少なく、イネ科を中心とする部分でもっとも多かった。 5) 釧路湿原地域をカバーする衛星画像解析を行い、地表の植生被覆のタイプと地下水条件の相違から地表条件を区分し、現地観測結果と関連させて、釧路湿原全体からのメタンガス発生量の予測式を提案することが出来た。 6) 冬季に赤沼の結氷中の高濃度のメタンガスが集積していることを確認した。これも湿原からのメタンガス発生量に含める必要がある。
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