これからの教育では、その質の充実が強く要請されており、算数・数学科の指導においても、論理的な思考に優れ、豊かな直感を働かせることのできる児童・生徒の育成を図る方向で新しい学習指導要領が作成され、それに基づく教育が現在小・中・高等学校においてそれぞれ実施されている。ところが、「図形」領域の教育についての基礎的研究は、他の領域に比べて歴史も浅く、低調であり、遅れている。 本研究は、図形概念の形成及び図形領域で取り上げる論証の2つに焦点を当て、小・中・高等学校の全体を視野に入れて図形領域のカリキュラムなど学習指導改善の基本的な視点を明らかにすることを目的として展開された。 研究成果の主要な部分は、まず、我が国における学校数学の現状と課題を検討し、それらを明らかにしたことである。すなわち、正否の判断や的確な表現に関する力が不十分であり、それらを高めることが学校数学の大きな課題になっていることを明らかにした。次いで、新しい学力観に立つ学校数学について、その理念の特徴とその実践への具体化の視点を明らかにしたことである。すなわち、新しい学力観に立つ教育では、子どもの学ぶ意欲と主体性の強化が重要であり、それらを踏まえて学校数学の改善の視点を整理した。さらに、我が国への図形(幾何)教育の移入・確立・定着の課程に視点を当てて歴史的な考察を行った。この検討により、我が国の古い数学(和算)の伝統であり、よさである直感及び帰納における優位性と西洋数学の形式性・論理性との調和が必要であることを提起することができた。さらに、それらの基礎的研究を踏まえて「図形学習における実践的研究」及び「図形学習における比較研究」を進め、図形学習に関する諸課題を明らかにするとともに、図形学習を改善するための多くの知見を引き出すことができた。
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