研究概要 |
教育工学分野における授業研究においては、従来、量的分析に力点が置かれ、カテゴリによる分析などが行われてきた。しかしながら、教師自らが自分の教育技術を自省的に研究するときには、そのような量的分析では不十分であり、質的分析が必要になる。最近,授業研究においても,コンピュータを利用しての質的分析が試みられるようになっているが、わが国の教育分野においてはまだ研究事例は少ない。そこで、研究最終年度にあたる今年度は,これまでの表計算ソフトにデータを取り込みつつ、カテゴリー分析ならびに単純な質的分析法を行う研究方法論を利用した授業分析をさらに進めた。今年度対象としたのは(1)小学校社会科における児童の社会認識の形成過程,(2)算数科における特定児童の変容過程,(3)児童の主体的活動の形成過程における教師の指導方略,の3点である。いずれも本方法論を用いて命題を記述することに成功し,一定の成果をあげることができた。それに加え,各教師が自らの授業を本方法論によって分析することにより,学校教育現場での授業実践・授業改善のために有効な,いわば実践的思考を身につけたと考えられる。本方法論は,特別な装置を必要とせずに,授業における命題記述からその特徴を表現するための概念化を目指したものであったが,同時に教師教育にとっても有効であると考えられる。なお,教師教育の効果については,本方法論を身につけた教師が,さらに学校教育現場での試行を繰り返しつつ,長期にわたって評価する必要がある。
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