研究概要 |
原子力プラント運転安全性の一層の向上を目指して従来から様々な運転支援技術開発が試みられてきたが、支援情報を目的と状況に適合した形で運転員クル-に統合提供する、情報の合理的提供技術は未確立である。本研究は、専門家を対象としての支援、なかでもクル-としての協調的問題解決を効果的に支援するためのインタフェース技術の基盤確立を目的として立案・実施した。まず効果的なクル-協調の基本指針として、本研究室での先行研究から得られた知見に基づいて、Cognitive Diversityという中心規範を提唱した。原子力プラント運転員は高度な教育訓練を経験した専門技術者であり、エキスパートシステムなどに代表される定型的な支援よりも、未経験の異常事態や、判断に混乱をもたらす誤りやすい事態に力点を置いた支援が要請される。また緊急事態における精神ストレス増大時にはクル-全員が特定の仮説に固執してしまい視野狭窄におちいるmind set問題が指摘されており、これへの対応が要求される。本研究で対照されたcognitive diversityの着想は、上記困難のいずれについても解決のための有力な手段を提供する。具体的には A.抽象化度の異なった多重視点対象記述(汎化機能、物理機能、実体機能)の提供 B.関連する多様なデータ(系統図、過去の特性、保守履歴など)の構造化統合提示 C.複数運転員への異種視点の弁別提供と総合判断支援 のそれぞれを可能にするための基本的な方式を確立し、併せて開発された方法の有用性を実験的に評価・検証する手法も開発した。特に項目B,Cに関しては D.プラント配管系統図(P&ID)の主要系統に沿う重要変数の変化を体系的に表示するProcess Overview Display, E.主要な機器の動的挙動をP&ID上で状態空間軌跡の形で要請に応じ示すStructured Functional Display, の概念を提唱し、それらのプロトタイプ実装とシミュレータによる評価実験を行って有効性を確認した。また支援情報の適時提供を可能にするための基盤技術として、記憶ベース推論に基づく診断支援方式も開発し、その有効性も検証した。 本研究で方法論的基盤とするDiversity指針は独創性の高い着想であり、複数の国立研究所等が共同で進めている「原子力用人工知能研究」プロジェクトでも中心的技術として採用され、また1997年11月開催予定の国際学会では招待講演を要請されるなど、国内外での高い評価を得ていることを付記する。
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