圧力容器鋼の照射脆化機構解明に電気抵抗測定法、マイクロ硬さ法を適用した。Fe-Cu系モデル合金について、イオン照射を行い、焼鈍実験から、種々の欠陥の成長、消滅過程についてのモデルを検討した。照射効果の予測の方法論である照射相関についても研究を行った。成果を以下の3点につき要約する。 1.電気抵抗変化を用いた研究 高精度電気抵抗測定自動化システムを完成した。Fe-Cu合金で陽子照射により銅あるいは他の不純物原子の集積が惹き起こされ、電気抵抗が減少することが認められた。予備的焼鈍実験の解析により、照射欠陥と銅、炭素原子などが関与する集積過程、および欠陥消滅によるこれら原子の解放過程が示唆された。照射後焼鈍過程のモデルを提案したが、これを確立するためには、さらに各段階の活性化エネルギー、頻度因子などの情報を得、添加元素濃度依存性などを明らかにする必要がある。 2.硬さ変化を用いたFe-Cuモデル合金の時効過程の研究 Fe-Cuモデル合金中の銅原子の挙動を調べるための時効実験を行った。この合金では、焼き入れ後の時効によって硬化がおこり、最大硬化点を経て軟化する典型的な時効挙動を示す。最大硬化量は銅含有量に依存し、これは時効温度における銅の過飽和度により合理的に説明される。照射脆化における銅の効果を考察する際、マトリックス中に固溶している銅の量を考える必要がある。 硬さが最大点に到達する時間から見積もった活性化エネルギーは154kJ/mol(1.6eV)で、銅の拡散の活性化エネルギーよりもかなり低く、焼き入れ空格子点の存在や銅・空格子点対に生成の可能性が考えられる。 3.照射相関の研究 機構に基づく照射効果の予測の方法論である照射相関、とくに欠陥クラスタリング機構、重イオン照射損傷その場観察法の適用性の検討、照射相関の階層構造をモデリングについて研究を行った。
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