近年急増しつつある高層集合住宅居住に伴って、そこに住む母子の心身の健康がどのように変化するかを調べるために、東京都内の一高層住宅に住む幼児545名の母親を対象に、居住環境に対する満足度と、彼女達の持つ自覚的健康度との関連性を調べた。その結果、居住階の高低に関わらず、周辺居住環境に満足または肯定的に受け止めている母親ほど、心身の健康意識は高く、特に彼女たちの精神的健康度が、住環境に対する満足度と大きく関わっていることが示された。一方、われわれは8年前に、高層居住児は、低層居住児に比べて、基本的生活習慣(排便、衣服の着脱、挨拶など)の自立が遅れることを報告したが、今回、全く同一高層団地にて、同年齢層の幼児を対象に同様な方法で、自立状況を調べた結果、居住階の違いによる自立の遅れの差異は観察されなかった。この原因についてはいろいろ考えられたが、一つには当高層団地に対して、我々が、研究成果を、団地内の広報や講演会、乳幼児検診時の相談などを通じて、フィードバックしてきたことから、これらによる間接的介入効果が表れたものと解釈され、現在その実証を試みている。一方、団地住民の、団地内諸行事(盆踊り、ふれあい祭りなど)に対する参加率は高層階に住む母親ほど低いことや、高層居住児が、休日の遊び相手として父親と過ごす時間は、低層階の子供より平均40分も長いことがわかった。これらのことから、高層居住は、住民間の人間関係やコミュニケーションに微妙に影響を及ぼすことが示唆され、ストレス時の対応法を含めて、混合考えていかなければならない問題と思われた。
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