近年、大都市圏では住居の高層化が急速に進みつつある。しかし高層住宅居住がそこに住み暮らす人々に対して健康影響を及ぼす可能性について、科学的立場から継続的に行われた研究は殆どない。一方、近年、子どもの体格の向上と反比例するように、彼らの体力低下が報告され、住環境の変化とそれに伴う子どもの運動量の低下がその一因としてクローズアップされている。このような事情を踏まえ、本年度は東京とその近郊の大都市にあるコミュニテイ形成型の高層集合住宅にて、子どもとその母親が持つ健康と運動に関する意識を調査した。また育児を担当する母親の母性性の確立過程に環境の変化がどう影響するかを心身医学の立場から調べた。一方、物理的影響として電磁波が生体にどのように影響するか、その可能性に関する基礎研究も行なった。その結果以下のことがわかった。1)高層幼児に見られた基本的生活習慣の自立の遅れは、調査結果のフィードバックにより解消され得る。2)高層居住の母子の遊び・運動に対する意識は母子間、居住階間で異なる。3)幼少児を持つ高層団地の母親の心身の健康意識は、住環境に対する適応度に依存する。4)戸建て(または平屋)の一般住宅と、高層集合住宅に住む母子では運動に対する意識・考え方が異なる。5)高層集合住宅の母親は、児の振動発生防止への気遣いから我が子の室内での動きを規制する傾向がある。6)母親の幼少時の成育環境は母親の母性性の確立過程に影響を及ぼし、さらに健康意識、育児態度にも影響を及ぼす。7)電磁場の生体への影響は必ずしも明確ではないが、影響を無視できるものではない。
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