有機スズ化合物、特にトリブチルスズ化合物は、付着生物の防汚剤として船底塗料や漁網に添加され、世界的に広く利用されてきた。しかし、その強い毒性のために、カキ貝殻の肥厚による被害や巻貝のインポセックスによる種の絶滅の危惧が指摘され、先進諸国では小型船舶への使用規制は実施され出したが、大型船舶への利用は規制されていない。 ROPME海域(ペルシャ湾)の沿岸諸国は、産油国が集中しているため、タンカー等の大型船舶の航行量が多く、有機スズ汚染が懸念されている。本研究では、海鷹丸のROPME海域調査に同行し、1993年7地点、1994年6地点で魚類を採取し、凍結保存して持ち帰り、分析に供した。筋肉及び肝臓部のブチルスズ及びフェニルスズ化合物の分析を行い、有機スズ汚染を評価した。 両年採取された7種全ての魚類からトリブチルスズ、ジブチルスズ、モノブチルスズが検出され、又諸外国では生産されていないトリフェニル、ジフェニルも検出された。全ブチルスズ化合物濃度は、湾中央部から湾口部に向かって高くなることを見いだし、この結果は、湾内での水塊の年齢に対応していることを指摘した。魚種による大きな違いは見られなかったが、底生魚であるハマギギだけは、他に比較して2倍以上の濃度であった。筋肉中では、主成分はトリブチルスズで、肝臓中では、ジブチルスズであった。他方、肝臓中のフェニルスズ化合物の主成分は、トリフェニルスズであり、これらの結果は、高山(1994年)による東京湾の魚類中の傾向と良く一致していることを見出した。 妨汚剤としてのトリフェニルスズ化合物は、諸外国では生産されず、わが国だけが使用したものであり、わが国で建造したタンカーが、この海域の有機スズ汚染にかなり寄与していることを明らかにした。
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