本研究の目的は、ラドンの吸入装置を開発し、ラットを被曝させ、気管支および肺の細胞を取り出し、ラドンの生物学的指標に対する影響を調べ、α線の線量率効果およびタバコとの相乗効果を特に注目して、ラドンの肺がん誘発のリスクの研究に役立たせることだった。初年度にラドン吸入装置を開発することに力を注いで、3匹のラットに吸入させることができる装置が作製できた。ラドン濃度はかなり一定しているにも関わらず、フィルター上に補足してZnSシンチレーションカウンターで測定した娘核種濃度は急激に減少することがわかった。ラドンに24時間曝露させたラットの肺から線維芽細胞を取り出し、微小核試験を行い、その頻度をフィルター捕捉法でモニターした娘核種とピコラッドでモニターしたラドン濃度に対してプロットしたところ、データの振れはかなりあるが、むしろラドン濃度に対して比例関係が認められた。ラドンの微小核誘発率の平均値(約0.3%)をX線線量-微小核率曲線に外挿すると0.2〜0.3Gyに相当することがわかった。この値はラドンのRBEを20とすると説明できる。ラドンを4時間ラットに曝露すると肝臓、腎臓、脾臓、血液中のsuperoxide dismutase (SOD)の活性が上がった。少し低い線量率での16時間被曝では血液を例外として有意に減少した。X線照射でもSOD活性の刺激効果が観察されているが、それはGyレベルの被曝の時である。これらの結果から、この吸入装置でのラドン被曝がX線に比べると低い吸収線量で生物学的効果を生じさせることが分かった。しかし、気管上皮細胞の形質転換誘発率や、突然変異誘発率を調べるのには十分な線量ではないので、今後、吸入を10回以上繰り返し傷害を蓄積させた上で調べる実験を行う。その際、微小核試験は生物学的線量計として役立つ。突然変異については培養細胞を使ってDNAの塩基配列を行った。形質転換率ではX線を使った研究が進行中である。ラドンをラットに吸入させる装置を開発し、それを使ってラドン被曝が実際に生物学的影響を与えることを示すことができたので、一応の成果を得たと考えている。
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