ペルオキシダーゼやP450など酸化反応を触媒するヘム酵素は、活性発現のために高い酸化能力を有する高原子価オキソ-鉄錯体を生成していると考えられている。しかしながら多くの中間体は、未だ酵素系では観測されておらず、高原子価状態を生成する機構の詳細、特に活性部位周辺アミノ酸の役割解明が急務となっている。 本研究では、モデル研究で示された反応機構に基づく活性部位周辺のアミノ酸の役割を実証する目的で、ミオグロビンの遠位ヒスチジンの空間的な位置を置き換えるミューテーションを行い、ミオグロビンに酵素活性を賦与する研究を行っている。現在、ミオグロビンの64番目のヒスチジンをロイシン29の位置へ移動することで、高い酵素活性発現に成功している。 さらに、ミオグロビンとペルオキシダーゼの遠位ヒスチジンでは水素結合の有無が、その化学的な性質に大きく影響していると考えられるため、ペルオキシダーゼの遠位ヒスチジンと水素結合を作っているアスパラギンを取り除いた蛋白を合成し、その酵素活性を検討した。その結果、水素結合が遠位ヒスチジンの塩基性をコントロールしており、それを通じて反応性に大きな影響を与えていることが初めて明らかとなった。 一方、不安定化学種を低温下、有機溶媒中で直接観測する目的でヘム蛋白質の蛋白表面の化学修飾を行っている。P450の場合、部分的化学修飾が進行せず、一端化学修飾が始まると、多くのアミノ基が化学修飾され、蛋白の三次構造が大きく変わってしまうことが明らかとなった。現在、修飾試薬等の選定を行っているところである。
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