前駆体蛋白質のミトコンドリア標的化と膜輸送について次の事柄を明かにした。 【1】ミトコンドリア外膜上のTom70-Tom37複合体が前駆体-MSF複合体に対する受容体であることを証明した。 【2】Tom70-Tom37に結合した前駆体-MSF複合体からATPの加水分解によってMSFが解離し、前駆体蛋白質はTom20-Tom22に渡された後に外膜と内膜の透過チャネルを経てマトリクスに運ばれることを証明した。 【3】変性直後の前駆体や細胞質のHsP70によってほどけた構造が維持される前駆体はTom70-Tom37をバイパスして直接Tom20-Tom22に運ばれた後に膜を透過する。この過程は細胞質のATPを必要としない。 【4】ミトコンドリアへの蛋白質輸送には細胞質とマトリクスのATPと内膜の膜ポテンシャルが要求される。これらのエネルギーを順次除去して輸送を行うことにより。前駆体蛋白質がマトリクスに到達するまでに6種類の輸送中間体を効率よく捕捉する系を組むことに成功し、これらの中間体の性質の解析をおこなった。これによって、外膜と内膜の輸送装置を生化学的に解析する道がひらかれた。 【5】外膜受容体Tom70、Tom20の細胞質領域、HsP70、MSF、3種類の前駆体蛋白質すべてを精製し、これらを用いて前駆体と受容体の相互作用を水溶液系で解析した。その結果、(1)Tom70への前駆体の結合には、その種類にかかわらずMSFが必要であり、Tom20への前駆体の結合にはHsP70が必要である(2)これら2種類の受容体は前駆体のミトコンドリア標的シグナルを特異的に認識するがその認識機構は両者で明確に異なる(3)2つの受容体間での前駆体の授受が可逆的であることを明かにした。 【6】哺乳類ミトコンドリアの受容体としてTom30/metaxinを見いだした。
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