本研究は、小脳顆粒細胞に特異的に発現されるガングリオシドの機能解析を目的とした。平成7年度の成果として、(1)ラット小脳の発達過程において、各糖脂質の発現は時期、部位に特徴的である。(2)ラットおよびマウス脳由来の初代培養細胞における糖脂質の発現は、免疫組織化学的解析結果とほぼ一致する。特記されるべき結果として、小脳の成熟顆粒細胞にGD2とGD1b、未分化顆粒細胞にO-Ac-GD3、バーグマングリアにGM1が各々特異的に発現されていることが挙げられる。平成8年度は、未分化の顆粒細胞に発現されるO-Ac-ジシアロガングリオシドの転移酵素のクローニングに成功した。今後の展開として、これら糖転移酵素遺伝子の導入によるガングリオシド改変により惹起される細胞の動態解析が考えられる。すなわち、O-Ac-ジシアロガングリオシドやGD2合成酵素のcDNAを未分化顆粒細胞や未分化神経細胞株に強制発現させ、ガングリオシドの改変を特異抗体により確認する。その後、この細胞の動態(分化、移動)異常を細胞生物学的に解析する。成熟顆粒細胞にはシアル酸転移酵素のcDNAを導入し、ガングリオシドの改変された細胞を同様に観察する。顆粒細胞におけるガングリオシドの生理学的機能が一つでも解明されれば、本研究が引き金となり他の重要な神経機能(シナプス形成、神経突起延長、軸索束形成など)にかかわる糖鎖の役割が次々と解明される可能性がある。
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