細胞分裂や細胞分化の過程における細胞形態の変化は、細胞表層付近のアクチンを中心とした細胞骨格系に主として依存している。この細胞骨格系の構成を不可逆的に、かつ、外界からのシグナルに応じて変化させる因子であるカルシウム依存性中性プロテアーゼ(以下、カルパイン)がある。カルパインは、多細胞動物界に普遍的に、しかも、これを構成するほとんどあらゆる細胞に分布する。本研究では、対象をショウジョウバエ初期胚に置き、発生生化学的解析を行うことにより、カルパインのシグナル伝達系と細胞骨格再構成過程を結びつけ、カルパインの生理機能を明らかにする研究を行った。具体的には、(1)抗カルパイン抗体および抗アクチン抗体を用いたショウジョウバエ初期胚における免疫組織化学的解析、(2)カルパインの基質となる可能性があるアクチン調節タンパク質のcDNAの取得と、大腸菌における発現、さらに、活性あるカルパインの発現系の確立に基づいた。カルパインの作用機構の試験管内での解析、(3)これらの結果を基にしたカルパインの作用を示すプローブ(切断部位を認識する抗体)の作成、(4)これらのプローブを利用した、カルパインとその基質の動態の観察、すなわち、カルパインの作用の生きたショウジョウバエ初期胚(発生過程)における機能発現の観察を、行った。その結果、カルパインは、初期胚の擬分裂溝におけるアクチン系細胞骨格の動態に大きく関わっていることを示す結果を得た。
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