研究概要 |
ATP合成酵素は,膜内にあってH^+の通過路となるFoと,膜表面にあってATP合成の触媒中心の存在するF_1-ATPase(サブユニット組成 α_3β_3γδε)とに,可逆的に分離することができる.その構造の最大の特徴は,α_3β_3の6角形のリングの中央を,γサブユニットの90Åに及ぶ長いα-ヘリックスが貫いていることである.α_3β_3の中央でγサブユニットが回転するという作用機構モデル(Boyerの“回転説";H^+の流れ→回転→ATP合成)が現在優勢である.確かに回転しているかどかはともかく,γサブユニットは,H^+の透過によって生じたFo部分の構造変化を,βサブユニットの活性中心に伝えているにちがいない.問題は,どのように伝えているのか?,という点である. そこでγサブユニットの役割を追究した。好熱菌のF_1-ATPaseのγサブユニットを含む複合体(α_3β_3γ)を大腸菌内で大量に合成させる組み換え系を確立し,これによって以後の研究が格段に進むようになった。まずα_3β_3複合体とα_3β_3γ複合体の酵素学的な比較検討を行なった。α_3β_3γ複合体の1つのβサブユニットは,基質ATPを強く結合し,その水解は2つ目のβサブユニットにATPが結合すると著しく促進される。しかし,α_3β_3複合体にはこのような性質は見られなかった。γサブユニットの導入によってα_3β_3複合体にもたらされた構造的非対称性が,3つのβサブユニットの差別化をひきおこすと結論した。また,γサブユニットをトリチウム標識し,α_3β_3γ複合体に再構成し,ATP水解にともなうトリチウム放出を測定したところ,ATPを加えない場合と差がなかった。したがって,γサブユニットのα-ヘリックスの大規模な崩壊と再編成は起きていないと結論した。 好熱菌のα_3β_3γの発現系を作製した。大腸菌1gから20mgも精製品がとれる。このことにより,試料の調製が格段に容易になった。
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