研究概要 |
ATP合成酵素は,膜内にあってH^+の通過路となるFo(分子量約10万)と,膜表面にあってATP合成の触媒中心の存在するF_1-ATPase(分子量約38万,サブユニット組成はα_3β_3γδε)とに,可逆的に分離することができる。F_1-ATPaseにはβサブユニットが3分子あり,その各々に触媒部位がある。酵素が働いている時、3つの触媒部位は、どの瞬間においても各々違ったことをやっているのだが、それにもかかわらず、等価であるらしい。F_1-ATPaseの構造はα_3β_3の6角形のリングの中央を,γサブユニットの長大なヘリックスが貫通している,という特異なものである。まるで,γサブユニットを軸とする遠心機のローターのような格好である。今回、われわれはγサブユニットの回転運動をリアルタイムに直接観察することに成功した。好熱菌由来のF_1-ATPaseをガラス基盤上に固定し,γサブユニットの回転は,それに結合させたアクチン繊維の回転運動として蛍光顕微鏡で観察できる実験系を作った。すると、アクチン繊維がATPが存在するときのみ、元気良く回転するのが観察できた。このことから、H^+がFo部分を通過するときのエネルギーが,γサブユニットなど分子中央のサブユニットの回転を引きおこし,次にその回転がATP合成を誘導する、というATP合成酵素のメカニズムが明らかになった(Nature 386,299-302,1997)。
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