固体ないし組織のレベルでは、「回転機構」が見いだされた例がない。ひとつながりのものの中では、真の回転は起き得ないのである。しかし分子レベルまで降りていくと、分子どうしは結合解離を繰り返して「滑り」あうことができ、しかも、分子集合体は多くの場合螺旋構造(円板や円輪を含む)をとる。螺旋に沿って滑れば回転である。分子レベルでは、回転は当たり前のことかもしれない。これまで回転がみられた例はわずかしかないが、それは単に分子レベルの回転を検出するのが難しかったためだとも考えられる。 本研究では、分子レベルの回転の検出のため、(1)蛍光色素1分子の向きを蛍光偏光イメージングにより実時間測定する、(2)分子に比べてはるかに大きなプローブを結合させることにより分子の回転を捉える、という2種のアプローチを提案し、実現した。 (1)の例として、ミオシン上を滑走するアクチン線維が、滑走しながら線維軸の回りに回転する様子を定量的に捉えることができた。また、(2)の例として、ATP合成酵素が1分子でできた回転モーターであることを示した。また、真の回転ではないが、アクチン線維のねじれ運動も捉えることもできた。 分子の回転が捉えられたということは、分子の構造変化(必然的に向きの変化を伴う)を実時間測定できることを意味する。蛋白質分子でできた「分子機械」が一体どのような仕掛け(構造変化)により働くのかを、1分子イメージングにより追求する、「1分子生理学」の発展に大きな寄与をすることが期待される。
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