ミオシン分子モーターがアクチンフィラメントの上を滑る分子機構として、ラチェットモデルが提唱されているが、本研究では、このモデルの仮定となっているアクチンフィラメントに沿った表面分子場がフィラメント軸に沿って非対称かどうかを分子計測によって調べた。このため、ガラス表面に固定したアクチンフィラメント(または、骨格筋ミオフィブリル)の表面を光ピンセットによって捕捉したミクロビーズを滑らせ、その滑りがフィラメント軸に沿って異方的であるかを調べた。ところが、ミクロビーズをアクチンフィラメントに接触させた所、いわゆるjump-inとよばれる現象が起こり、アクチンフィラメント表面に一旦接触したミクロビーズは、現有システムで光ピンセットの捕捉力を最大にしても、これをアクチンフィラメントから引き離したりその上を滑らせることができなかった。一方、ミクロビーズにミオシン活性部を吸着させ、これをATP類似物存在下で光ピンセットでアクチンフィラメント表面上を滑らせる実験では、今の所その滑り運動がフィラメント軸に対して異方的であるというデータは得られていない。一方最近、原子間力顕微鏡でミオフィブリルの表面像を得ることに成功した(安池、山田:日本物理学会、1996年発表)が、原子間力顕微鏡では十分の力でカンチレバ-をミオフィブリル表面を滑らせることができ、その結果、Z線を挟んでその両側で得られるカンチレバ-信号に違いがあるらしい実験データが得られた。アクチンフィラメントの方向がZ線を挟んで逆転していることを考えると、これはアクチンフィラメントの表面場に構造の異方性がある可能性を示唆している(若山、安池、由利、山田:日本物理学会、1997年発表)。
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