本研究では、バクテリオロドプシンにおける球殻状多面体構造の発見にヒントを得て、膜蛋白質を精製する以下のような新しい方法の可能性を探ることを目的としている。即ち、生体膜の脂質環境を制御することにより、特定の膜蛋白質の自己集合を促し、球殻状多面体構造として選択的に取り出すというものである。このような方法は、従来経験的に知られている選択的可溶化という現象を、そのメカニズムを想定した上で積極的に制御することを指向するという点において重要であると考えている。今年度は、バクテリオロドプシンにおける球殻状多面体構造の形成メカニズムに関するより詳細な研究を行うと共に、網膜内桿体細胞の円盤膜環境の制御によるロドプシンの新しい精製方法の考案を試みた。その結果、バクテリオロドプシンで用いられた界面活性剤、pH、温度設定に非常に近い条件下において、円盤膜からのロドプシンの選択的な可溶化が起こることが明らかになった。このことは、バクテリオロドプシンの存在する紫膜と円盤膜とでは脂質構成が全く異なることを考えると非常に興味深い現象である。現在では、従来アフィニティーカラムによって得られていたものと同等以上の純度のロドプシン試料が、桿体細胞外節の可溶化のみで得られている。また、この方法では通常のカラムクロマトグラフィーによっては得られないほど高濃度のロドプシン試料が、非常に容易に得られるという点でも優れていると思われる。これらの結果は、我々が行っている生体膜環境の制御方法が、更に一般の膜環境へも応用できる可能性を示唆していると考えられる。
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