研究概要 |
ショウジョウバエの中枢神経系は、体節構造からなっている。また各半体節を構成する神経細胞やグリア細胞は、分化の始めに形成される半体節当たり約30個のニューロブロストのいずれかの子孫であり、それらの子孫細胞は細胞系譜依存的に分化することが知られている。従って中枢神経系構築の基本原理を理解するには、個々のニューロブラストの体節上の位置や性質がどのようにして決められているのかを調べ、またそこからどのような子孫細胞が生じてくるのかを調べ、それらの結果を加算していけばよい。本研究の端緒は、ステロイドホルモン受容体遺伝子の一種、eagleが、前後軸に沿った4例(ニューロブラストの列は半体節当たり全部で6列ある)から一つづつの、4種のニューロブラスト、NB6-4,7-3,2-5,3-3で特異的に発現しているとの発見にある。大腸菌lacZ遺伝子をeagleエンハンサーの下流につなぎトランスジェニックバエを構築し、まずそれぞれのニューロブラストから生じる子孫細胞の特定とアクソン形成過程を解析し、次いで、前後軸方向の位置情報とニューロブラスト形成との関係を調べた。前者の研究から、NB6-4の最終子孫細胞は、特異的な一対のグリアであること、NB7-3の子孫は、たった4つの神経細胞であり、恐らくそのうちの2つは、セロトニンニューロンであること、NB2-5,NB3-3は、梯子状神経を構築する上で重要であり、また一部は運動性ニューロンと機能していることが見出された。後者の研究は、主として分泌性のモルフォゲンをコードしているhedgehog遺伝子の機能を中心に行われた。hedgehogは、第1列と第5列(NB6-4,2-4)のニューロブラスト形成に必須であり、オートクリンとしてもパラクリンとしても機能していた。詳細な結果は省くが、互いに独立なhedgehog,wingless,engrailed,gooseberryという4つのsegment polarity遺伝子の組み合わせにより、各例のニューロブラストの特性や形成が決められていることが明らかとなった。
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