本研究では、ERMは、単にアクチンフィラメントと細胞膜の機械的結合を司っていると同時にシグナル伝達やアポトーシスとの関係にアプローチした。 【rhoを介したシグナル伝達との関係】 作業仮説としては、CD44とERMの結合、または、ERMとアクチンフィラメントとの結合が、rhoによって制御されていると考えた。このことを証明するには、まず、in vitroでこれらの結合を測定できるシステムを構築することが必要であった。そのために、平成7年度は: (1)エズリン、ラディキシン、モエシンそれぞれをバキュロウイルスの系を用いて大量発現させ、精製した。 (2)CD44の細胞質領域とGSTの融合蛋白質を大腸菌で作った。 (3)グルタチオンカラムを用いて、GST-CD44とリコンビナントERMとの結合を測定する系を構築し、この結合に必要な条件を調べた。 (4)アクチンフィラメントとリコンビナントERMとの結合をやはり、in vitroで検出する系を確立し、この結合に必要な条件を検討した。 平成8年度は、上記のように確立したCD44とERM、及びERMとアクチンフィラメントの結合のアッセイ系を用いて、これらの結合に対するrhoの影響を調べた。rhoは、大阪大学高井義美教授から頂いたリコンビナントを用い、rhoをGTP-γS、及びGDP存在下で、上記のアッセイ系に加え、GTPの状態によってrhoの影響に変化があるかを調べた。 【アポトーシスとの関係】 アポトーシスが引き起こされるきわめて初期の段階で微絨毛が消える。微絨毛にはERMが極度に濃縮しているから、アポトーシスが、引き起こされる過程で、ERMの何らかの分布の変化、性状の変化が見られるはずである。平成7年度は、この変化を追跡した。この結果を参考にして、平成8年度はERMとアポトーシスの関係を推測し、その仮説を証明すべく、遺伝子工学的な実験を考えた。たとえば、アポトーシスの課程で、CD44とERMが分離するようなことが見つかれば、CD44の細胞質領域を細胞で大量発現させることによりCD44-ERM結合を阻害してやると、逆にアポトーシスが誘導されるか、といった実験を行った。
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