植物の細胞壁が担う生理学的役割に対する認識は、近年大きく変り、生理反応に不可欠な役割を果たしていると考えられている。このため、細胞内外を結ぶ構造とその分子種の同定が緊急課題になっている。本研究では、維管束植物としては下等なシダ植物をモデル系として、動物細胞ではECMと細胞膜の結合阻害に働くRGDペプチドを、植物細胞で探索することを目的とした。 市販のRGDペプチドが、植物の、しかも表層微小管のみならず、核や葉緑体の形状など細胞膜から離れた細胞内構造にまで影響を及ぼすということを発見したが、この結果はRGDペプチドの合成時に混入したほんの少量の酢酸の影響であることが、判明した。 そこで植物における細胞膜と細胞壁を接着する因子そのものを直接探索することを計画し、動物細胞の接着因子として働いているインテグリンβサブユニットの保存領域を参考にプライマーを作製し、我々の材料であるホウライシダにインテグリン様分子が存在するか否かをRT-PCRにより探索した。しかし得られたRT-PCR産物の中には細胞接着因子と考えられるアミノ酸配列をもつものは発見できなかった。 これらの結果からだけでは、シダ植物にRGDペプチドは存在していない、とは言い切れないが、植物細胞でのRGDペプチドの存在の確たる証拠がない現在、植物での細胞接着因子は動物におけるRGDペプチドとは異なる種類の分子が働いている可能性が高いと考えられる。
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