研究概要 |
神経軸索を構成する主要な細胞骨格は微小管とニューロフィラメントであり,これらは全て細胞体で蛋白合成された後軸索へと輸送供給される。これら細胞骨格は軸索や神経細胞が変性を起こすのに先立って,変形,分布異常,蓄積等の変化が観察される。今年度はニューロフィラメントの軸索内輸送を阻害し,運動ニューロンに強い毒性を示すβ,β'-イミノジプロピオニトリル(IDPN)を投与したラット坐骨神経の運動繊維を用いて,その毒性発現の初期過程を,ニューロフィラメントの燐酸化と微小管構成蛋白であるチューブリンの安定性の両面から検討を加えた。その結果神経毒性が発現する(投与後約3日)より,またニューロフィラメントの輸送阻害が見出される(投与後約1〜2日)のに僅かに先立って,IDPN投与1日以内にニューロフィラメント蛋白の最も分子量の大きいサブユニット(NFH)の燐酸化が一過性に低下し,これと対応して低温可溶性チューブリンの一過性上昇が見られることが判明した。この変化は従来見い出されていた変化より早く現われる初期変化と考えられる。また脊髄後根神経節細胞の初代培養系を用いて軸索の微小管を特徴づけている安定型微小管の安定化の過程が,神経突起の形成・成熟過程と密接に関連していることを見い出し,その安定化の分子機構につき検討を加えつつある。 以上の観察からニューロンや軸索の変性に先立って見出される細胞骨格の異常は,ニューロフィラメント蛋白の燐酸化の変化によりトリッガ-されることを推定し,in vivoの系とin vitroの系を併用しつつ,更に解析を進めていく予定である。
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