研究概要 |
神経細胞は通常一本の軸策と複数本の樹状突起とを持っている。軸策の体積は時に細胞体のそれの1,000倍を超す場合があるにもかかわらず、自分自身で必要とする蛋白を合成することができない。細胞体で合成され、軸策に送り出された蛋白は、軸策途中での補給が不可能なため長期間にわたってその役割を果たし続けねばならない。従って軸策の中では変性・分解から保護され、また一部に変性が起こっても修復して再利用できる機構が備わっていなければならない。しかも軸策の末端に到着するとそこでは保護機構が解除されて速やかに分解・処理される必要がある。このように軸策内の細胞骨格蛋白は細胞体での合成、細胞体からの積み出し、軸策内での輸送と重合・脱重合変換、そして軸策末端での分解・処理が絶妙なバランスの上に成り立っているといえよう。 神経軸策を構成する主要な細胞骨格はニューロフィラメントと微小管であり、それらのそれぞれにつき軸策内での重合・脱重合変換の機構を解析した。ニューロフィラメントについてはその軸策内輸送を特異的に阻害し、運動ニューロンに強い神経毒性をβ、β'-イミノジプロピオニトリル(IDPN)をラットに投与し、その初期変化としてニューロフィラメント蛋白のリン酸化が、従来見出されていた知見とは異なる変化を示すことを明らかにし、同時にニューロフィラメントの200Kサブユニット(NF-H)の溶解性についても変化が起こることを新たに発見した。更にこれを発展させ、軸策内輸送との関連性についても解析を加え発表した。 一方もう一つの重要な構成成分である微小管の重合・脱重合変換に関しては、微小管結合蛋白の一つであるタウ蛋白が関与しており、特にそのリン酸化によって微少管の重合・脱重合変換及び安定型微小管への変換が制御されていることを明らかにできた。
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