研究概要 |
脳老化に伴うシナプス機能の異常を,アセチルコリンの合成能と放出活性について調べたところ,アセチルコリンは十分生成されているにもかかわらず,脱分極刺激によるアセチルコリンの放出が低下していることが明らかとなった.そこで神経伝達物質放出のトリガーとなるカルシウムイオンの流入に加齢の影響があるかどうかを検証することを本研究の目的とした. マウス脳からシナプトソームを調製して,カルシウムイオン感受性蛍光指示薬Fura-2を取り込ませ,カルシウムイオン濃度の上昇を蛍光分光光度計で測定した.Fura-2は細胞には問題なく用いられていたが,シナプトソームの場合には,粒子径が小さいための散乱光による妨害によって正確な値が得られなかった.まず散乱光を抑える装置を企業に開発してもらった(島津RF-1500).それでもなお生じる散乱光は,計算式に補正項を導入してその影響を除去することに成功した.ここで確立した方法を用いて,若齢から老齢にわたるマウスの脳シナプスについて脱分極に伴うカルシウムイオンの流入を測定した. 電位依存性カルシウムイオンチャンネルを介するカルシウムの流入が,老齢に伴って減少することが明確に見い出された.シナプトソーム内のカルシウムイオンの上昇の程度とアセチルコリン放出量との相関が極めて高いことも示された.したがって,老齢脳シナプスにおける神経伝達物質放出の減少は電位依存性カルシウムチャンネルの加齢変化よるものと推定された.次年度はカルシウムチャンネルのどのサブタイプが加齢の影響を受けやすいのかを検討する計画である.
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