従来のジーンターゲッティングでは、生殖細胞系列において導入された標的遺伝子の変異は、その個体の発生・発達を通じて全ての体細胞に伝搬される。そのため、発生において重要な機能を持つ遺伝子のノックアウトマウスは、胎生期に致死となり、成体における遺伝子機能の解析は困難であった。この問題点を解決するために、生体内の特定の組織・細胞、或いは発生の特定の時期に特異的に標的遺伝子に変異を導入するための手法の開発が、本研究の目的である。基本的な手法としては、PI_aファージ由来のCre組換え酵素とその認識配列であるloxPによるシステムを用い、トランスジーンCAG-SLacZを用いて、LacZ遺伝子の発現による組織・細胞の青染により、Creの発現によるloxP間の組換え・欠失を同定することにより、各種手法の有効性を解析した。まず、Cre遺伝子を組み込んだ組換えアデノウイルスを作製し、これを感染させることにより、マウス成体内の各種組織特異的なジーンターゲッティング法の開発に成功した。この手法の樹立により、マウスの皮膚、消化管、肺、肝臓、膵臓の各組織の上皮細胞特異的に標的遺伝子に変異を導入することが可能となった。次に、我々はCre遺伝子を各種組織特異的に発現するトランスジェニック・マウスを作製し、これを用いることにより、皮膚の基底細胞(K14プロモーター)、小脳プルキンエ細胞(PCP2プロモーター)、嗅神経細胞(OMPプロモーター)等の各種細胞特異的に標的遺伝子に変異を導入可能なシステムの樹立に成功した。これらトランスジェニック・マウスを用いたシステムは、高い特異性を示すと同時に、その効率も極めて高いものであった。
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